ファン・デア・ワールス的な弱い分子間相互作用からなる分子性半導体では、常温~100℃程度の低温プロセスにおいて、異種・同種材料間の界面に良好な電気的接触を形成することが可能である。プラスチック基板上での成膜を可能にするこの特性こそが、有機エレクトロニクスを優位づける特徴の一つと考えられる。本研究では、この特徴にコピー機の原理である静電印刷プロセスを組み合わせることで、より低コストの有機エレクトロニクス素子製造プロセスが可能かどうかの検証を行う。特にここでは、静電印刷プロセスによって作製した高移動度材料HMTTFの薄膜デバイスの構築を行った。実験においては、まず粒径1μm程度の有機半導体粒子、及び有機導電体ナノ粒子を粉砕法により形成した。次に半導体ナノ粒子をカールソン式電子写真法により局所的に帯電させたポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム上にチャネル層として吸着させ、また導電体ナノ粒子をソース・ドレイン電極として厚さ2μmのPENフィルム上に形成させて、これらを貼りあわせて100kg/fcm^2程度の圧力を印加し、デバイス構造を形成した。チャネル層の厚さは約5μmであった。ドレイン電圧-1Vを印可して伝達特性を測定したところ、閾ゲート電圧が+18Vのノーマリーオンのp型特性を示した。また伝達特性の傾きから移動度は0.3cm^2/Vsと見積もられた。これにより、コピー機の原理を利用する新しいプロセス技術を用いて、有機エレクトロニクス素子の構築が可能であることを示し、真空・溶媒フリーのきわめて簡易なプロセスによって電子シート製造が可能であることを実証することに成功した。
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