研究概要 |
パラフィンは蓄熱効率が高く,高効率の熱輸送システムが期待されるが,乳化剤による乳化方式では高剪断下により乳化パラフィン滴が破壊されてパラフィンと媒体が相分離してしまう。それに対してパラフィンのマイクロカプセル化法ではそのような問題は生じず最も現実的である。しかしながら,奇妙なことにカプセル化によりパラフィンの過冷却の発生や潜熱量の低下が観察されており,この現象は未解明のままである。これらを解消するために,高級アルコールなど高融点試薬を含有させる手法が検討されているが,現象論にとどまっている。本研究では,マイクロカプセル化されたパラフィンの特異な凝固・融解挙動を詳細に検討し,ミクロ空間でのパラフィンの相転移挙動における界面の存在の影響を明らかにすることである。さらに独自のマイクロカプセル合成法を熱輸送物質の高効率カプセル化法として確立することを目指している。 本年度は,カプセル壁を構成するポリマーに焦点をあて検討を行った。架橋性成分(ジビニルベンゼン(DVB))に極性の高い成分(各種アクリル酸エステル)を様々な組成で共重合した。重合挙動および生成カプセル粒子の構造解析を行うことにより,特にアクリル酸ブチル(BA)を共電合させると,DVBとBAの共重合反応性の違いから,得られたカプセル壁は内側にBA成分のリッチな層を有する傾斜構造を取っていた。このBAリッチな層の存在により,過冷却温度は5℃程度改善され,熱容量では非常に高い値を示した。これらは単独系の時より,カプセル壁とパラフィンの界而での相互作用が悪くなり,カプセル壁付近のパラフィンが相転移しやすくなったためであると考えられた。また,カプセル化したパラフィンの凝固挙動の検討も行ったところ,パラフィンの凝固は外側から内側に向かって起こっていることを明らかにした。
|