高い面密度を持ち、各々が量子力学的にトンネル結合した半導体自己組織化量子ドット集合体を作製し、不特定多数の経路を伝搬する電子の量子情報であるスピンの伝搬ダイナミクスを実験的に明らかにすることを目的として、本年度は以下の研究を実施した。 (1)高面密度半導体自己組織化量子ドットの作製 分子線エピタキシーの成長条件を検討し高面密度量子ドットの作製を行った。特に、ドット層の堆積膜厚、ドット成長時の基板温度やアニール温度などを詳細に検討し、高い面密度を持つ量子ドット集合体を得ることが出来た。さらに、これらの高密度量子ドット集合体の一部に励起子スピンを注入するため、トンネルバリア層を介して光学特性に優れる希薄磁性半導体を積層した高品質磁性エピタキシャル半導体量子ドット構造を作製した。 (2)自己組織化量子ドットへのスピン注入と量子ドット間スピン伝搬ダイナミクスの分光計測 上述した希薄磁性半導体の結合構造を利用して、磁性半導体に光生成した励起子スピンを量子ドットへ注入した。そして(電子スピン情報を直接反映する)円偏光を用いたピコ秒時間分解発光分光により、量子ドットへのスピン注入とさらに注入後のドット間スピン伝搬ダイナミクスの実時間計測を行い、得られた発光の減衰特性とその円偏光度の詳細な励起子発光エネルギー依存性(ドットサイズを反映する)をもとに、スピン伝搬ダイナミクスとドット内スピン緩和時定数を取り込んだレート方程式解析を行った。このような実験手法により、注入されたスピンのドット間伝搬ダイナミクスとドット内スピン緩和ダイナミクスを実験的に明らかにした。
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