研究概要 |
本研究課題の目的は分子に局在するスピンと伝導キャリア(スピン)との相互作用を生じさせ、それによって互いのスピン位相の制御を行うことで将来的には分子系における良好なスピンコヒーレンスを利用した上でその系における単一スピン位相の制御を可能とさせる突破口を拓くことにある。 2008年度は主に銅フタロシアニン(CuPc)をチャネル層に用いた電界効果型トランジスタ(FET)を用いたFET-ESR測定と、CuPcとコバルト(Co)を共蒸着によって作製したナノコンポジット素子の電流注入下におけるさまざまな測定から、CuPcのCuサイトに局在する孤立スピンと伝導スピンとの相互作用を観測することを目指した。 まず、FET-ESRのほうは電界誘起されるキャリア数とCuPcの局在スピン数の間の乖離(最大で4桁から5桁)を解消しきれず、電界誘起されるキャリアによる局在スピンの、ないしはその逆プロセスを観測するに至っていない。電流注入下における測定では、まずCuPc-Co系において低温で12%程度の磁気抵抗効果を観測した。Co粒子の粒径や伝導度から判断すると、他の分子を用いた場合よりも磁気抵抗比が小さくなっており、伝導度の温度依存性などから伝導スピンと局在スピンとの相互作用(スピンフリップ)が磁気抵抗比を下げている可能性が示唆された。その知見を元にESR評価を行い、CuPc単体のスペクトルと、CuPc:Co=3:1,10:1と組成を変えた構造のスペクトルが材料の組成比に応じて変化するところまで観測に成功している。これがCuPcの構造変化によるものなのか、CuPcとCoの間の電荷移動によるものなのかはまだ明らかではないので次年度にはこの点をクリアにしたい。さらに非弾性トンネル分光も行うことでスピンブリッププロセスと近藤状態の存在を証明する予定である。
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