分子の持つ電子的局在性、孤立性に注目し、ナノスケールにおける共役的トンネリングやホッピングを利用したデバイスの構築を行った。酸化・還元中心を持つ大規模金属錯体として、Mn12核錯体に注目し、DNAをテンプレートに用いて一次元アレーを形成した。Mn12核錯体がDNAに結合すると、DNAは剛直になり、DNA鎖の絡まりが起こりにくくなるので、Mn12核錯体の一次元的配列を形成できることがわかった。 電流-電圧カーブの温度特性を調べたところ、高温ではフランケループール型のホッピング伝導を示したが、低温では活性化エネルギーが極めて小さくなり、トンネル伝導が強く示唆された。低温における電流-電圧特性は明瞭な閾値特性を示すが、温度依存性から界面障壁ではないことが明らかになった。n次元クーロンブロッケードモデルによるフィッティングを行ったところ、極めて良く一致し、電流経路の分岐次数ζの値から、1次元的特徴が強いことが明らかになった。さらに、温度特性を詳細に調べたところ、ブロッケードバリアは8meVと極めて低い値を示した。この値は、ブレークジャンクション中に分子溶液を落とし込んで測定された単一分子計測の結果と良く一致する。また、Mn12核錯体中におけるスピンースピン相互作用エネルギーと近い。これらのことから、Mn12核錯体は、常時性スピンの集合体として働き、Mn12核錯体は低いエネルギーで電子の出し入れすることができるので、分子エレクトロニクスにおける電子移動媒体として有用であることがわかった。
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