研究概要 |
バイオマテリアルの薄膜化はバイオ工学の基礎であり、溶液プロセスが主に用いられてきた。しかし溶液プロセスでは溶媒混入による不純物の問題や、集積化・デバイス化のためのパターンニングが困難という問題がある。DNAチップやバイオデバイスの更なる展開にはバイオマテリアルの高品質薄膜化・積層化が欠かせないため、不純物のフリーの高品質薄膜が作製できる新手法が求められている。 本研究課題では、この要求を満たす手法として赤外領域の連続光半導体レーザーを用いた分子線エピタキシー(MBE)法を提案し、バイオマテリアルの薄膜化を進めている。無機材料のレーザーアブレーションの場合に用いられるパルスレーザーは、有機分子材料に適用する場合、多光子過程によって分子内結合を切断する。またMALDI TOF-MSでよく用いられるマトリックスの使用は不純物の混入を招く。そこで赤外線連続光レーザーの採用によって多光子過程を抑制し、分子構造を維持した製膜が可能となる。通常の真空蒸着では、原料がるつぼ内で加熱され続けるために、熱変性が起きることがあるが、本手法により、短時間で気化でき、原料の熱変性を極力抑えることができた。 平成20年度の研究では、赤外線半導体レーザーMBE法を用いて、Si基板上にsalmon DNAとその構成要素である核酸塩基(adenine, thymine, cytosine, guanine, uracil)の有機薄膜の製膜を行った。上記全ての核酸塩基についての薄膜化に成功し、FT-IR測定から原料の分子構造を維持した薄膜であることが分かった。次にSalmon DNAについても薄膜化に成功し、FTIR測定ではいくつかの構造変化は見られたものの、振動ピークがいくつか観察されており、分子構造が一部変性していることを示唆している。製膜条件の更なる最適化によって、変性を抑制できると考えられる。
|