研究概要 |
固体高分子形燃料電池に用いられている電解質(一般的には,デュポン社製ナフィオン膜)は,燃料電池の起動・停止に伴う,温度・湿度変動環境下で劣化することが知られている.特に,家庭向け定置型燃料電池と異なり,自動車搭載用燃料電池は,起動・停止の回数が多いため,電解質膜の劣化も著しくなり,燃料電池自動車の早期実現のために,信頼性の高い燃料電池を開発する上での障害となっている. そこで本研究では,(1)電解質膜の巨視的劣化挙動評価と,(2)電解質膜の微視的劣化挙動評価を行う. (1)電解質膜の巨視的劣化挙動評価では,電解質膜の引張試験を,燃料電池の発電状態での温度・湿度環境下で評価できる実験システムを構築した.具体的には,本年度導入した島津製作所製の卓上型引張試験機に小型環境槽を設置した.環境槽にはテープヒーターを巻き付けるとともに,コフロック製のバブラーユニットから加湿空気を注入することにより,温度・湿度制御下で,500%程度の伸びまでの実験を行えるようにした.また,キーエンス製のレーザー厚さ計を引張試験中の試験片中央を常時モニターするための機構と組み合わせて設置することで,実験中や湿度変動時の電解質の膜厚変化を計測できるようにした. (2)電解質膜の微視的劣化挙動評価では,電解膜と電極層との界面における接触損傷の評価を行うために,島津製作所製超微小硬度の圧子部分だけを小型環境槽で囲み,テープヒーターとバブラーユニットを用いて,任意の温度・湿度環境下での微小押込み試験を行える装置を完成させた.電解質膜は,微小圧子押し込みに伴い,圧縮クリープ変形するので,各種クリープ特性に及ぼす温度,湿度と繰り返し押し込みの影響を調べた.また,圧縮クリープひずみを推定するための非弾性構成式の定式化を試みた.
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