本研究は、超伝導単一磁束量子回路の高機能化の障害となっている大容量高速メモリに対し、超伝導回路技術とスピンエレクトロニクス技術を組み合わせることで解決を試みるものである。記憶層として強磁性体を用いるが、そのキュリー温度は超伝導体の臨界温度よりも低く抑えることで、超伝導回路への悪影響を抑制する。磁性体を使うことでシートインダクタンスが大きくなり、読出し回路も含めた記憶セルは従来よりはるかに小さくすることが可能となる。平成20年度は、超伝導回路の作製法の確立と強磁性層のキュリー温度ならびに磁気特性の制御法の探索を行った。前者に対しては、層間絶縁層を含むNb/A10x/Nbジョセフソン接合作製の各プロセスの見直し行い、歩留まりの向上、臨界電流密度の制御、リーク電流の低減を行った。これにより、回路評価に耐え得る良好なジョセフソン接合の作製に成功した。また、磁性層の特性評価に向けたSQUIDの設計を行った。一方、磁性層形成法については、様々な検討を行った結果、プロセス全体の簡素化を考慮し、最終的に磁性ナノ粒子をフォトレジストに混ぜスピンコートする方法を採用するに至った。キュリー温度を含めた磁気特性の制御は、ナノ粒子の大きさとフォトレジスト中の濃度によって制御可能と考えている。平成20年度は、塗布方法の確立まで行っている。このほか、平成21年度の特性評価、回路実証に向け、温度が可変な液体ヘリウム伝導冷却超伝導磁気特性評価装置の組み上げを行った。以上により、平成21年度の本格的磁性層評価、回路評価の基盤技術が確立した。
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