本年度は、スピン波伝送バスに用いる垂直磁化膜の強磁性共鳴特性を測定を行い、スピン波の減衰長を左右するダンピング定数を調べた。さらに、垂直磁化膜パターンのスピン波伝送実験を行う予備実験として、NiFe合金を伝送路とするスピン波伝送素子を試作し、スピン波生成と検出に用いるヘアピン型配線パターンの形状の最適化を図った。以下に、本研究で得られた知見を列記する。 (1)マグネトロンスパッタ装置を用いて、垂直磁気異方性を示すCo/NiおよびCo/Pd多層膜を作製した。 次に、電子線リソグラフィー装置を用いて、垂直磁化膜パターン上にマイクロ波伝送用コプレーナ線路を作成し、ネットワークアナライザFMR分光測定を行った。FMRスペクトルの線幅からダンピング定数(スピン系に作用する摩擦の大きさを表すパラメータ)を測定した結果、Co/Niが0.1〜0.2、Co/Pdが0.06〜0.08となり、Co/Pdの方がスピン波の長距離伝送に適していることがわかった。 (2)ガラス基板上にダンピング定数が0.01以下のNiFe合金薄膜パターンを形成し、その上に誘電体層を介して非対称ヘアピン導体パターンを2つ作製した。ヘアピン導体の一方はパルス信号発生器に、他方は20GHzサンプリングオシロスコープに接続した。局所パルス磁界により誘起されたスピン波の伝播を誘導法により実時間観察することに成功した。また、マイクロマグネティクス計算によるスピン波伝送シミュレーションを行い、スピン波バス動作においてノイズ信号となる直接歳差運動項をヘアピン導体の形状非対称化により抑制できることを明らかにした。
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