高エネルギー電子ビーム照射による電子励起プロセスの分子シミュレーションを開発するため、励起状態を表す原子間ポテンシャルを分子動力学シミュレーションに導入した。電子照射により材料構成原子の結合が切れた状態を、原子間にクーロン斥力を付加する状態に置く仮定でモデル化した。すなわち、確率的に選んだ励起原子に対して、その周辺原子との相互作用を記述するポテンシャルに一時的にクーロン反発項を付加した。 アモルファスシリコンに対して電子励起のポテンシャルを導入した分子シミュレーションを実行した結果、電子励起が十分緩和した後のアモルファスシリコンの持つ全エネルギーは、始めの状態に比べてわずかに低くなり、より安定な系に移行した。しかしながら、アモルファスシリコンが結晶化するような大きな構造相転移は見られなかった。 また、電子ビーム照射を受けたナノカーボン材料に対して、弾性衝突過程による構造変化を分子シミュレーションにより解析した。電子の弾性衝突過程は衝突断面積に基づき確率的に導入し、二体衝突理論により電子から炭素原子への運動量の移行を計算した。収束した電子ビーム照射による構成炭素原子の叩き出しと、その後の表面再構成により、電子ビームの照射条件に依存したナノカーボン材料の構造変化が見られた。特にカーボンナノチューブでは、電子ビーム照射により屈曲変形を誘起することが可能であり、照射を受けるナノチューブの部位により変形形状を制御できることが分かった。
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