本研究の大きな目的は、情報・セキュリティ分野で最近注目されている秘密分散技術を全光情報処理技術と融合することである。本年度は、本秘密分散技術を確立するためのモデルプラットフォームとして、2光波暗号方式による秘密情報の暗号・復号処理系の構築を行った。暗号化システムの安定性と堅牢性を解析し、暗号化に必要な光鍵長などを明らかにした結果、32×32ピクセルの暗号鍵においても100万分の1以下の暗号解読確率を達成した。本秘密分散技術においては、4光波混合における2つのポンプ光の波面の一致度によって、非線形媒質中での空間的な位相整合状態が変化することを基本原理に用いている。空間2次元の暗号鍵と信号光の暗号化マスクによってデータの暗号化を行うことにより従来法と同等の暗号化性能を維持しつつ、残された空間自由度である厚さ方向の位相整合によって光鍵に対する認証機能を実現できることを明らかにした。具体的には、2313ピクセルの暗号鍵を用いた暗号化において、適正1不正アクセスに対する再生強度比が10倍以上、暗号マスクのシフトトレランスも6μm程度であり、実用上十分な結果が得られた。さらに、材料開発を専門とするAlexander Grabar教授との海外共同研究により、SR_2P_2S_6結晶を新たに開発し同結晶によるMPPC(相互励起位相共役)の動作を世界で初めて実現した。Sn_2P_2S_6は高速応答性から最近注目されているフォトリフラクティブ材料であり、可視域のミリワットクラスのレーザを用いたシステム構築の観点から大きな意義がある。また、今回の成功は、本研究目的の推進のみならず、MPPCを用いる光配線・インターコネクション、画像処理などの高性能化に大きく貢献すると考えられる。
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