空隙の連続性を精緻に把握することができれば、コンクリート中の物質移動機構の解明に大きく貢献すると共に、コンクリート構造物の余寿命予測技術の高度化にも大きく寄与する。本研究は、物質移動に関与する連続性をもった空隙と物質の貯留空間となるインクボトル空隙の分離抽出を可能とする水銀圧入空隙測定手法の確立を目指したものである。 本研究では、まず、段階的に水銀の圧入を繰り返した際の累積圧入曲線を重ね合わせると包絡線が描かれることを発見し、この包絡線が物質の移動経路となる連続性を有するキャピラリー空隙網を、また累積圧入曲線のベースアップ分(バイアス分)がインクボトルに閉ざされた空隙を捉えているとの仮説を世界で始めて提唱した。続いて、高圧力領域の圧入曲線においても、直径10nmを基準として累積圧入曲線を重ね合わせると再び包絡線が描けることを発見し、この10nm程度(メゾスケール)のインクボトル空隙は、セメント粒子周りに形成される外部水和生成層のフロント同士が接合することにより、キャピラリー空隙と外部水和生成層の境界に形成される幾何構造との仮説を提唱した。 さらに、セメント硬化体中での物質移動経路となる連続性を有するキャピラリー空隙網の分離抽出法について検討し、40nm以上の範囲の包絡線、もしくは、空気泡や凝集体などへの水銀の侵入を示す包絡線からの分岐が生じている範囲の包絡線を、物質の移動経路となる連続性を有するキャピラリー空隙網とみなす判定方法を考案した。そして、物質移動と強い関係を持つと言われるしきい細孔径と空隙量に関する情報を併せ持った累積細孔量曲線の積分値に着目し、異なる養生を行ったセメントペーストの酸素拡散係数および透気係数の測定結果の傾向と比較分析した結果、累積細孔曲線の積分値の空隙指標としての有意性と物質の移動経路となる連続性を有するキャピラリー空隙網の判定基準の妥当性を示した。
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