断熱材として広く用いられている多孔質材料の有効熱伝導率については、多くの推算式が提案されているが、気孔率の小さい範囲(<30%)では、いずれの場合も有効熱伝導率は気孔率に比例してほぼ直線的に減少する。しかし我々は、100nmオーダーの微細閉気孔を導入したナノ多孔質ZnOでは気孔率が10%程度でも有効熱伝導率は最大30%程度低下することを見出した。しかし、ナノ細孔の導入には、空孔形成材料としてポリメタクリル酸メチル(PMMA)粒子を添加して焼結しているため、PMMA粒子の凝集などにより粗大気孔も生成し、再現性も悪い。そこで本年度は、1)PMMA粒子の分散性向上を目的として、各種の界面活性剤を添加して分散剤としての効果を検討すると共に、2)ほぼ単分散のナノ細孔から成るメソポーラスシリカMCM-41の細孔構造を保持したまま焼結することにより、均一なナノ細孔を有するバルク体を合成して、熱伝導率との関係を実験的に検討した。 1) 空孔形成材料として用いる粒径150nmのPMMA粒子を水に分散させ、前年度に用いた非イオン性界面活性剤のTriton X-100以外に、カチオン性界面活性剤セチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)、アニオン性界面活性剤ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を種々の濃度で添加し、所定時間攪拌、静置した後に、動的光散乱法で粒径分布を測定した。最も単分散に近い粒径分布を示したのはTriton X-100添加試料であり、非イオン性界面活性剤の優位性が確認された。 2) MCM-41の焼結体は、焼結温度800℃以上では細孔構造が消失したが、焼結温度700℃では、MCM-41自体とは異なるものの、20nm程度の周期的細孔構造が認められた。焼結体の熱伝導率は、気孔率が10~30%程度でも緻密体の40~60%程度まで大きく減少しており、粗大気孔を持たないナノ多孔体が特異な熱伝導率低減効果を発現することが立証された。
|