触媒設計・開発において、触媒寿命の予測、触媒劣化機構の解明は最も困難な課題の一つである。実験的な触媒劣化機構の解明には、長時間を必要とする触媒劣化試験を行う必要があるため、理論的な劣化予測手法の開発が求められている。これに対し研究代表者らは量子分子動力学法、分子動力学法、キネティックモンテカルロ法から構成されるマルチスケール触媒シンタリングシミュレータの開発に既に成功している。しかし、上記のシミュレータ群は担体を平坦な2次元平面と仮定して計算する方法論であり、1次粒子、2次粒子、細孔径分布を有する現実の工業触媒を反映しているとは言い難い。そこで、本研究では世界的にも初めて触媒担体の1次粒子、2次粒子、細孔径分布を考慮した電子レベルからμmレベルまでのマルチスケール触媒シンタリングシミュレータを開発することを目的とした。 昨年度開発したマルチスケール触媒シンタリングシミュレータを活用することで、固体酸化物形燃料電池におけるNi/YSZサーメット電極のシンタリングシミュレーションを行った。その結果、高温においてNiが多孔質YSZの間隙をぬって拡散し、シンタリング現象を起こすダイナミクスを解明することに成功した。さらに、様々な形状を有するNi/YSZサーメットモデルを構築し、Ni/YSZの形状がシンタリングに与える影響を明らかにした。また、Pt触媒においては、Ptの酸化劣化反応がシンタリングに大きな影響を与えることが実験的に知られている。そこで、Pt触媒の酸化反応ダイナミクスについても検討を行い、酸化反応における酸素原子の侵入パスを理論的に明らかにすることに成功した。さらに、Ptの酸化反応が触媒劣化に与える影響についても明らかにした。
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