本研究は、周期の長い生物時計と言われながらも解明の進んでいない毛周期時計の分子機構を、新たに得られたマウス毛色変異体を用いて解析することを目的とする。ENU mutagenesisによってC57BL/6J系統のマウスから加齢と毛周期に依存して毛色を変化させるマウス新規突然変異体が得られた。この系統は常時黒いメラニンを合成する遺伝的背景を持つ。生後すぐの毛を毛周期一回目の毛とすると、4回目の毛周期において突然茶毛色となる。さらにマウス背側の同じ場所に着目して観察を続けると、次の毛周期(5回目)では真っ黒な毛に戻る。以後毛周期を重ねるごとに、これを繰り返す。我々ヒトと異なり、マウスの毛周期は体の前部から後部に向かって進行するため、この変異体では、生後12週位(4回目の毛周期が始まるころ)以降、マウス背側を茶色と黒色の帯が交互に後部に向かって移動するようになる。この原因遺伝子をまずマッピングすべく試みたが、当該変異体の繁殖率が異常に低くなり、この変異系統のIVFによるレスキューに追われている。この間、当該遺伝子の作用機序を推察するために、多面発現について組織化学的な解析を始めた。その結果、毛周期の一時期に野生型に比べ激しい皮膚の肥厚を引き起こすことを見いだした。これまでのところ、細胞増殖が亢進し、特に上皮層の層数が増加している観察像が得られているが、野生型におけるどの上皮層が増加しているのか、現在マーカーを用いて詳細に解析中である。また予想もしなかった他の臓器でも構造異常を示す箇所があり、確認を急いでいるが、当該系統のレスキュー中であるので、数少ない個体の全身をまず詳細に観察しているところである。計画していたホモ接合体の観察はこのような状況からまだ進んでいない。次年度には是非解析を行いたい。
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