金属タンパク質中の金属イオンは、それを取り囲むポリペプチドや配位子が環境を制御し、同じ金属イオンでも機能が多様である。金属イオンの電子状態の科学は、これまで原子の幾何学的構造に基づいた分子軌道計算と分光学的手法による「エネルギー準位」間の観測値を基に構築されてきた。本課題では、金属タンパク質を超高分解能で精密にX線結晶解析し、金属イオンのd軌道電子を直接観測しようとするものである。今年度は[4Fe-4S]クラスターを持つフェレドキシンに焦点をあて、この結晶について信頼性の高い超高分解能解析を目指した。本解析では、低分解能から高分解能までの広い領域の回折強度データを必要とし、回折強度幅が1〜10^6以上ある。このため露光時間を変えて測定せざるをえず、この結果としてX線照射量が大きくなる。さらに、金属イオンは他の原子よりX線損傷を受けやすいので、まずはX線損傷に注目して、様々な条件で回折データを収集・評価した。X線照射量を様々に変えて測定した回折データについて、結晶学的統計値を比較検討した。また、並行してそれぞれの回折データを基に構造の精密化を行った。さらに、[4Fe-4S]クラスター周辺に現れる差の電子密度を検討した。このような解析により、信頼できる超高分解能の回折データを収集できる条件・留意点を把握した。なお、今回の解析で、0.63A分解能のデータに対して、R=0.10、R_<free>=0.11まで構造を精密化している。
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