薬物トランスポーターは、薬物の吸収を行う小腸や、排泄を担う肝臓や腎臓、および薬物の透過を制限するための血液脳関門などに発現し、薬物動態に大きな影響を与える細胞膜蛋白質である。種々の薬物トランスポーターはそれぞれの機能に応じて、これらの臓器の上皮細胞の特異的膜領域(管腔側もしくは基底膜側)に局在化している。この局在化は薬物トランスポーターの機能発現に必須であるが、その局在化メカニズムに関しては大部分が未解明である。 最もよく知られた薬物トランスポーターの一つであるP糖蛋白質(PGP-1)は小腸上皮細胞においてアピカル膜(管腔側)に局在化し、薬物を細胞内から汲みだす機能を担っている。そのためPGP-1は薬物の吸収効率に大きな影響を及ぼしており、特に癌細胞においてはPGP-1の細胞膜での発現量増加が多剤耐性の大きな原因となっている。よってPGP-1の膜局在化の分子メカニズムを明らかにすることは、薬物動態を調節する新しい手法の開発にもつながることが期待できる。当該年度においては、線虫を用いてPGP-1の局在化を制御する因子群の遺伝学的スクリーニングを行った。 まずPGP-1-PFPを発現するトランスジェニック線虫を作成し、PGP-1のアピカル膜への局在を、生きた個体のまま蛍光実体顕微鏡レベルで観察できる実験系を確立した。次にこのトランスジェニック線虫を出発材料として、突然変異誘発剤(EMS)およびFeeding RNAiライブラリーをもちいて、PGP-1のアピカル膜への局在化に異常が観察される変異体をスクリーニングした。その結果、EMSによるスクリーニングでは約6000匹のF1世代を単離し、そこから生まれたF2を観察して、PGP-1の局在に異常が見られる10個以上の変異体の単離に成功した。一方、RNAiによるスクリーニングでは、PGP-1のアピカル膜局在化に関与すると考えられる約30種類の候補遺伝子を同定した。それらの中にはモーター蛋白質複合体であるダイニン・ダイナクチン複合体をはじめ、細胞内小胞輸送に関与すると考えられる複数の因子が含まれており、本スクリーニングの妥当性が示された。
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