薬物トランスポーターは、薬物の吸収を行う小腸や、排泄を担う肝臓や腎臓、および薬物の透過を制限するための血液脳関門などに発現する膜蛋白質である。それらは各種臓器の上皮細胞の特異的膜領域(管腔側もしくは基底膜側)に局在化して機能している。例えば最もよく知られた薬物トランスポーターの一つであるP糖蛋白質(PGP-1)は小腸上皮細胞においてアピカル膜(管腔側)に局在化し、薬物を細胞内から汲みだす機能を担っている。そのためPGP-1は薬物の吸収効率に大きな影響を及ぼしており、特に癌細胞においてはPGP-1の細胞膜での発現量増加が多剤耐性の大きな原因となっている。従って薬物トランスポーターのような蛋白質の膜局在化の分子メカニズムを明らかにすることは、薬物動態を調節する新しい手法の開発にもつながることが期待できる。そこで本研究ではPGP-1を題材として、アピカル膜への選別輸送に関与する分子群を遺伝学的手法により明らかにし、上皮細胞における選別輸送を体系的に解析することを見的とした。 線虫は遺伝学的スクリーニングが可能であり、体が透明なので生きた個体のままGFP融合蛋白質の発現や細胞内局在を解析できるという利点を有している。申請者は、PGP-1のC末端にGFPタグが付加されたPGP-1-GFPを発現するトランスジェニック線虫の単離に成功し、ヒトなどの哺乳動物における小腸上皮細胞での局在と同様、PGP-1が腸上皮細胞のアピカル膜に局在化することを明らかにした。次にこのトランスジェニック線虫を用いて、EMS及びRNAiライブラリーを用いた遺伝学的スクリーニングにより、PGP-1のアピカル膜局在に関与すると考えられる遺伝子群を多数単離した。その中でも、ヒトSNAP29のホモログであるPHI-28の機能抑制は独特なPGP-1局在異常の表現型を示し、さらにヒト培養細胞を用いた実験系により、SNAP29とRab8が相互作用することを見出した。近年Rab8欠損マウスにおいて、腸細胞でアピカル膜タンパク質が細胞内に蓄積し、その局在異常を引き起こすことが示された。これは、線虫においてPHI-28の機能を抑制した際に観察されたPGP-1-GFPの局在異常と類似している。よって、腸細胞においてPHI-28/SNAP29とRab8の相互作用により、PGP-1のアピカル膜への局在化が制御されている可能性が考えられた。
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