交付申請書に記載の研究実施計画に沿って研究を遂行し、下記の成果を得た。 1.前年までの成果より、主観的夜に長期記憶形成効率がよく、主観的昼に効率が悪くなる結果が得られていた。この長期記憶形成の時刻依存的変化におけるSCOPの機能を具体的に示すため、レンチウイルスを用いて海馬CA1領域特異的にSCOPのノックダウンをおこなった。正常マウスにおいて長期記憶効率が良い主観的暗期に、記憶効率の測定をおこなうと、SCOPノックダウンマウスの長期記憶効率は顕著に減少した。SCOPノックダウンマウスの短期記憶形成効率は時刻に関わらず正常に形成される。以上のことから、記憶を長時間保持するための固定化に関わる経路に、SCOPが時刻依存的に関与していることが考えられた。また、海馬のSCOP蛋白質量は主観的暗期に高く、K-Rasとの結合がおこなわれる膜Raftsに注目すると、SCOP量の時刻依存的な変化は非常に顕著であった。以上のことからSCOP蛋白質量の時刻依存的な変化が、K-Rasを介して長期記憶の効率を調節していると考えられる。 2.概日時計からのリズムのアウトプットとSCOPとの関わりを探索するため、培養細胞内のSCOPをノックダウンし、細胞が持つリズムへの影響を、レポーター遺伝子を用いて検討した。SCOPノックダウンにより、細胞の概日リズムの振幅は小さくなり、また周期は長くなる傾向が見られた。SCOPが概日リズムのアウトプットにおいてリズムの増幅効果を持つこととリズム周期の調整に効果を持つことを見出した。 3.SCOP過剰発現マウスの不安様行動を測定した。過剰発現マウスでは野生型に比べ不安様行動が大きい傾向がみられた。ただし、実験の性格上個体差が大きく、例数の追加と、ノックダウンやノックアウトマウスを用いて更なる実験検討が必要である。
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