1. 初期状態EA4のX線結晶構造解析 EA4はカイコ休眠卵の休眠打破に必要な冬期低温持続時間(5℃で約2週間)を計る機能を持つタイマータンパク質であり、室温の休眠卵中では時間読み停止機能を持つ38残基ペプチド(PIN)との複合体を形成することで時間読み開始前の初期状態に凍結されると報告されている。このような情報をもとに、カイコサナギ個体を宿主としたEA4とPINの共発現系を構築し結晶化スクリーニングを集中的に行った。しかし、複合体の構造解析にはまだ成功していない。これには理由がある。先ず、カイコ個体中ではPINが酵素分解を受け雑多な部分配列ペプチド集合体となり試料を複雑にしていること。また、試料中にPIN以外の未知のEA4結合性ペプチドが混在し、EA4・PIN複合体の形成効率を低下させていることである。本年度は、粗精製した共発現試料に対して大腸菌発現で作製したPINを大過剰に加え、25℃での限外濾過(分画分子量1万)を繰り返すことにより雑ペプチドを除去する方法を新たに取り入れた。ごく最近、この方法で精製した試料の微小結晶を得ることに成功した。現在、X線回折実験に適した大型単結晶の作製条件を検討している。また本年度は、上述の未知のEA4結合性ペプチドの全48アミノ酸配列を決定した。 2. 計時現象の計算機シミュレーション EA4の時間読みは、低温刺激によりPINが解離することで始まり、10日以上の遅延相の後に一過性の鋭いATPase活性を発現することで終了する。この計時現象を説明する最も有力なモデルは、EA4分子内の銅イオンが配位子交換反応を経ながら活性中心までゆっくり移動し活性型に転移する「多段階逐次モデル」である。本年度は、このモデルの妥当性を計算機シミュレーションで検討した。その結果、実際のデータを再現するためには60以上の異なる段階を仮定する必要があることが分かった。これはかなり無理のある状態数であり、モデルの修正を検討中である。
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