研究概要 |
ニホンザルに寄生するサルジラミPedicinus obtususについて、共生細菌の同定をおこなった。長野県地獄谷温泉のニホンザルMacaca fuscataおよび屋久島のヤクニホンザルMacaca fuscata yakuiから採集したサルジラミから細菌16S rRNA遺伝子およびGroEL遺伝子をPCR増幅、クローニング、塩基配列決定、分子系統解析をおこなったところ、γプロテオバクテリア内で独自の系統群を構成することがわかった。ヒト,チンパンジー、ゴリラから知られるヒトジラミ属Pediculus spp.やケジラミ属Pthirus spp.の共生細菌であるRiesia spp.とは系統的に全く異なり,類人猿のシラミ類と旧世界ザルのシラミ類の共生細菌は進化的起源が異なることが判明した。In situハイブリダイゼーションにより生体内局在を可視化したところ,幼虫期には中腸胃部の後半の上皮細胞内に局在するが,3令幼虫期に雌では側部卵管に移動して特殊化した共生器官であるovarial ampullaeを構成し,そこから卵巣内の卵に垂直伝達されることが示された。相対速度テストの結果,この共生細菌の系統では分子進化速度の上昇やAT含量の上昇がおこっていることが示された。これらの知見を総合して,サルジラミの共生細菌に新規な共生細菌として"Candidatus Puchtella pedicinophila"の暫定学名を提唱した。本研究成果はApplied and Environmental Microbiology誌に掲載受理された。
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