霊長類の生理・行動には種によって多様な化学的シグナルの授受があるが、これらの機構は未だ解明されていない。特に、分泌物を用いたフェロモンと呼ばれる効果については、1970年近辺にアカゲザルを用いた幾つかの報告があるが、近年、マウスなどのモデル動物でフェロモン物質やその受容体も同定されてきているのに比べるとその受容機構や情報処理機構については解明が遅れている。これまでの研究方法は形態学的・遺伝学的基盤に基づいていたが、本計画は、フェロモン分子の同定を足がかりとして、受容機構や遺伝子背景を特定するというこれまでとは逆方向のアプローチにより、最終的に神経回路や生殖生理現象の全貌解明を目的とする。平成20年度はまず、(1)フェロモン分子候補をガスクロマトグラフィー連動型質量分析計(GC-MS)により同定することをめざす。ことと、(2)フェロモン・嗅覚受容体候補をゲノムデータベースから同定し、遺伝子多型を手がかりとして種特異的な受容体分子の同定を目指すことを試みた。(1)ではワオキツネザルの皮脂腺分泌物より様々な炭素化合物と思われる画分を得ることができた。また、(2)ではゲノム情報から得られた霊長類の嗅覚受容体候補遺伝子の一部を個体別にクローニングと塩基配列決定し、遺伝子多型を同定することができた。平成21年度以降はこれらの結果を基に、さらに動物種数や遺伝子数を増やして受容体と揮発性低分子の組み合わせを精査する予定である。
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