ゲノム情報が公開されたマーモセットやアカゲザル、チンパンジー等の嗅覚受容体の遺伝子配列(種間差、種内多型)を主に解析した。哺乳類のフェロモンは分子量数百程度の低分子化合物から数千のペプチドまで様々見出されており、その分泌箇所も様々である。特に旧世界ザルやヒト・類人猿はフェロモン受容器と考えられている鋤鼻器が退化しているため、嗅覚受容体がフェロモン的役割を果たしている可能性も十分考えられる。そこで、これらについて種内・種間の変異も含めた嗅覚受容体の配列比較を網羅的に行った。特に、チンパンジーでは性ホルモン関連因子であるアンドロステノンなどが候補として考えられたためその受容体であるOR7D4の配列解析と共に行動実験を実施した。配列解析の結果、様々な遺伝子多型が見いだされたことから、種内で様々な機能的な差異があることが示唆された。そこで、霊長類研究所内に飼育されている個体に対して、アンドロステノンをしみこませたろ紙としみこませていないものを嗅がせ、行動の変化を観察したが有意な行動変化は現れなかった。一方、それ以外に40種類の嗅覚受容体の配列を種内で比較した結果、亜種間で多くの差異が発見された。特に、ゲノム配列からは西亜種では偽遺伝子化していると報告されていた嗅覚受容体について、その他の亜種の配列を実際に比較してみるとヒトと同様に機能している受容体も存在することがわかった。このように亜種間または生息環境で嗅覚受容体の配列が異なることから、フェロモン関連についても受容体の機能が興味深い。
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