これまでの民族識別へのアプローチは、個人識別のために求められていた多型標識の頻度分布をベースに、民族毎に比較し、多標識の組み合わせで精度を上げるというものであった。しかしながら、血液型やミトコンドリアDNAの多型では個人の識別には有効であるが、民族の特定には不向きであることはその多型分布から明らかで、新たなアプローチが求められている。本研究では、ヒトゲノムドラフト配列・SNPデータベースを活用しつつ、複数の祖先集団を持つと考えられる日本人について、現日本人に特有の、あるいは、日本人には見つからない新たな連鎖不平衡領域の組み合わせをLRH(Long-Range-Haplotype)法を用い抽出し、日本人の遺伝的プロフィールを明らかにすること、特に、南方からの遺伝的貢献の有無を明らかにすることとした。 本年度は、対照となる近隣諸集団の多型情報を検索した。東南アジアの諸民族の、ミトコンドリアDNAのフルシーケンスを60本決めた。また、インドネシアからフィリピン、台湾を経て日本に至る南方経路上に住む人々の間で、アジア型マラリア抵抗性と関連する遺伝的形質がどのように分布しているかを把握するため、AE1遺伝子のハプロタイプを台湾からインドネシアにかけて検索し、5つのハプロタイプを同定した。多型情報の少ないABCC11に関しては、東南アジア島嶼部での検索を進め、新たな欠失型保有個体を見出した。
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