コハコベ(Stellaria media)種子は、コハコベ植物体の優占度が低い福井市、大野市の土壌中では短期間で死滅するが、優占度が高い京都市、奈良市の土壌中でほ死滅しないこと、その種子死滅には土壌微生物が関与することが明らかになっている。本研究では、この生態現象の地域性を調べるとともにコハコベ種子死滅作用の強い菌株を培養とメタゲノム解析によって特定しようとした。 当初、北陸地方の土壌では東海土壌に比べてコハコベ種子死滅が顕著であり、その種子死滅に土壌pHと糸状菌が関与するのではないかと想定した。しかし、北陸、東海ともに種子死滅が起こる土壌採取地点と起こらない地点があり、また、種子死滅と土壌pHには明らかな関係が認められなかつた。感染実験の結果、糸状菌よりも細菌の方がコハコベ種子死滅作用が強いことが判明した。 死滅したコハコベ種子から単離された細菌は、Bacillus sp. 2菌株、Pseudomonas sp. 8菌株、Streptomyces sp.、 Arthrobacter sp.、Cupriavidus sp.各1菌株となった。また、種子死滅が顕著な土壌に共通して優占するが種子が死滅しない土壌では認められない細菌はBacillus sp.でめった。 以上から、異なる地域間でもある植物種の種子死滅に共通の土壌細菌が関与し、同一地域内でも地点によってその細菌の優占度が変わることで埋土種子の死滅度合いが異なると推察される。コハコべの場合、種子死滅の原因となる細菌は、Bacillus sp.の可能性が高いと思われる。このことから、種子死滅が顕著なため、埋土種子集団サイズが小さくなり、地上植生が制限されるという生態システムの存在が考えられる。
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