果樹の生産において、盛果期を安定的に維持する事は重要な課題である。しかし、土壌や気象条件、栽培管理など様々な要因によって老化が誘導され、盛果期の維持に対する悪影響が出てくる場合がある。永年性の果樹は、発芽から開花、枯死まで1年でライフサイクルを完結する1年生植物と異なり、数十年の歳月をかけて成長し、老化する。今回、希少かつ有用な、メンデリズムに従う表現型として若年老化する(成長の鈍化、新しい組織の形成の抑制、粗皮化などの老化現象が1-2年で生じる)ナシが交雑実生として見出されたので、これを利用し、果樹の老化機構を解明するとともに、盛果期の維持に活用可能な知見を得ようとした。若年老化樹を観察したところ、チュウゴクナシYaliとセイヨーウナシBartlettの交雑実生において成長の鈍化、新しい組織や器官の形成の低下、粗皮化などがみられ、早期の老化が確認された。また実生では3 : 1の1の割合で若年老化個体が得られることも確認され、変異アレルがホモで表現型として現れる劣性遺伝子の支配を受けていることが示唆された。さらに、分子生物学的アプローチとして、バラ科ゲノムデータベースや日本DNAデータバンクなどにおけるExpressed Sequence Tag(EST)情報を利用して、シロイヌナズナなどのモデル実験植物において老化やストレスに関連するとされている遺伝子の、ナシにおける相同配列を検索するとともに、それら相同遺伝子の塩基配列や発現を確認し、若年老化機構解明の一助とした。また、比較検討のため、他の樹種における加齢に関わる遺伝子の探索や、関連成分の解析等を行った。
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