永年性作物である果樹の生産において、盛果期を安定的に維持する事は重要な課題である。しかし、様々な環境要因、例えば土壌や気象条件、あるいは人為的な影響である栽培管理状況によっては早期から老化が誘導され、盛果期が十分な期間維持できない場合がある。果樹は、発芽から開花、枯死までのライフサイクルを1年で完結する1年生植物と異なり、数十年の歳月をかけて成長し、老化する。今回、希少かつ有用な、メンデリズムに従う表現型として若年老化する(成長の鈍化、新しい組織の形成の抑制、粗皮化などの老化現象が1-2年で生じる)ナシが交雑実生として見出されたので、これを利用し、果樹の老化機構を解明するとともに、盛果期の維持に活用可能な知見を得ることを目的とする。 今年度は引き続き、若年老化樹における形態学的、生理学的特徴を明らかにするための解析を行った。すなわち、チュウゴクナシYaliとセイヨウナシBartlettの交雑実生から分離した若年老化系統と野生型の表現型を示す個体から葉と枝を採取して、形態観察のための固定サンプルを調製するとともに、各種成分分析を行うために凍結試料を用意した。形態観察ではパラフィン切片を作成して顕微鏡観察するとともに、粗皮化に関わるリグニンなどを検出するための染色を行った。また、老化と関連する可能性のある、可溶性および不溶性炭水化物やタンパク質組成をHPLCや電気泳動等を用いて解析した。その結果、リグニン化の過程における変異が老化の進展を調節している可能性が示唆された。
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