本研究は、研究材料として優れた特性をもつ"昆虫"を、ヒトの病気のモデルとして利用しようという内容である。特に本研究では、人や家畜に感染する神経変性疾患であるプリオン病について、ショウジョウバエとカイコという2つの昆虫種の長所を使い分けながら、疾患モデル昆虫の構築を試みる。具体的には、プリオン(Prion)遺伝子とそのホモログであるシャドー(shadoo)遺伝子を導入したトランスジェニックハエを作製する。つぎに、ハエの脳抽出物をカイコ等の大型昆虫に接種する。これらの昆虫の行動解析や脳の病理解剖を通して、両タンパク質の生体への影響を明らかにするとともに、昆虫を用いたプリオン型神経変性疾患モデルの可能性を検証する。本年度は以下の実験を行った。 1マウスのプリオン遺伝子およびシャドー遺伝子をUASベクターにサブクローニングし、ショウジョウバエに遺伝子導入してトランスジェニックハエ(UAS系統)を得た。 2中枢神経系全体で発現誘導するelav-Ga14系統の他、時計細胞で極めて強く発現を誘導するtimeless-Ga14系統など、組織特異的に遺伝子発現を誘導するエンハンサートラップ系統と上記のUAS系統を交配して、遺伝子強制発現体を作製した。 3導入した遺伝子のタンパク質発現を、ウエスタンブロッテング法により確認し、発現量の多い系統を選抜した。 4プリオン遺伝子およびシャドー遺伝子の強制発現体の幾つかについて、歩行能力、寿命のほか、活動・睡眠性について行動解析を進めた。また、timeless-Ga14系統を用いた強制発現体については、概日リズムへの影響を調べた。 5神経形態に異常が生じたかどうかを、免疫組織化学染色法により検討した。
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