本研究は真核生物の外来性遺伝子に対するセンシング機構と発現制御機構の解明を目的に、外来性遺伝子として、麹菌にすでに内在するDNAトランスポゾンCrawlerに着目し、種々のストレス条件下におけるmRNAレベルでの発現制御やmRNA品質管理機構とそれに伴う転移活性との相関解析を行うものである。様々な重金属や物理的ストレスを分生胞子に与えたところ、転移活性を発現するCu^<2+>や高温ストレス処理のみが特異的にCrawler-mRNAに対するcryptic splicingや途中でのpoly(A)付加比率を低下させ、インタクトな全長mRNAの増加を誘導した。 トランスポゾン以外の外来性遺伝子のスクリーニングを目的に、遺伝子群におけるmRNA splicingに及ぼす転移活性化ストレス処理の影響について検討した。その結果、gpdAなどの代謝関連遺伝子では発現量の低下はあるものの、正常なスプライシングが多くの遺伝子で認められた。一方、splicing factor関連遺伝子やhistonH3H4などの細胞構造関連遺伝子においては、Cu^<2+>および高温ストレスによって多くの遺伝子がsplicing阻害を受けているという新規の知見が得られ、ストレス対応のための広範なalternative splicingが起こっていると共に、splicing factorの機能阻害によるCrawler転移活性化への寄与が示唆された。 CrawlerのtransposaseであるAotAについて、変異が設階的に異なる幾つかの株由来のDNA配列について比較を行ったところ、RIP様変異(GC→AT)が多く蓄積している領域が存在し、現在そのモチーフについて解析を進めている。
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