窒素老廃物として尿酸を排泄する動物と嫌気的に尿酸を分解する細菌の共生は広く存在すると考えられるが、嫌気い的分解に関与する酵素・遺伝子群をはじめ、分解細菌の生態や宿主動物との共生関係に関する研究はあまり進んでいない。シロアリとその腸内の嫌気的尿酸分解細菌による窒素源の再利用による共生は解明された数少ない例である。平板培地で嫌気的に尿酸を分解してハローを形成する腸内細菌群、乳酸菌群、Clostridium属細菌などの細菌を分離し、その過程で大腸菌も尿酸を分解することを見出した。そこで、分子生物学的研究に有利な大腸菌における嫌気的尿酸分解機構を解明することとし、トランスポゾン(Tn5)の挿入変異株を作成し、分解能欠損株を複数取得した。今後挿入遺伝子を同定して解析する予定である。また、イエシロアリ(Coptotermes formosanus)腸内のセルロース分解性原生生物Pseudotrichonympha grassiiの細胞内共生細菌(系統タイプCfPt1-2)において完全ゲノム解読を行なつた結果、窒素固定に働く遺伝子群、および、アンモニア・尿素を取り込んで利用するための遺伝子群が見られた。CfPt1-2細菌の属するBacteroidales目細菌ではこれらの機能ははじめて見出されたものである。この細胞内共生細菌は、新たな窒素源の獲得に加えて宿主原生生物の窒素老廃物を嫌気的に再利用して、宿主原生生物やシロアリに必須のアミノ酸やビタミン類に変換して提供する腸内の窒素代謝にきわめて重要な働きをすると考えられた。
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