1残基のアミノ酸置換で「多糖の加水分解酵素(デキストラナーゼ)を合成酵素に転換できる現象」を見出した。この反応機構を分子解析することが、本申請の目的である。このような合成反応は例がなく、世界で初めての現象である。また、産業利用への発展にも期待したい。この残基は触媒アミノ酸と考えられる。本現象は試験管内の観察であるが、このような点突然変異した酵素が実際に生物で機能している可能性を得た。進化の過程においてアミノ酸置換は容易に生じ、1つのアミノ酸を変異させることで酵素分子を「加水分解→合成」にする戦略は、進化的に効率が良い。この戦略の検証も本申請の目的である。本年度は次の結果を得た。多糖合成の分子解析(デキストラナーゼ):1)酵素の結晶化と立体構造解析:昨年度に大量精製した親酵素とGly置換体を用いて結晶化条件を検討した。良好な結晶化条件を確定でき、X線構造解析を進行中である。2)他のアミノ酸による変異酵素:Asp→Gly置換体が合成反応を示したが、より効率の良いアミノ酸置換も想定されたため、他の残基への点変異を試みた。その結果、Gly置換体が最も高い反応効率を与えた。Glyは最もサイズの小さな残基であり、Asp→Gly置換で生じた大きな空間が重要と考えられた。すなわち、このサイズの大きい空間に陰イオンが侵入し合成反応が進行したと考えられた。3)陰イオンの解析:アザイドイオンが最も反応効率の良い陰イオンであった。従って本イオンのサイズ・強度が合成反応に最適であることが分かった。反応の至適pHを確定でき、pK_a値に大きな変化がないと予想できた。4)生成物の構造解析:生成多糖はデキストラン様の構造であった。触媒残基の変異酵素の解析(ウニ酵素):5)遺伝子の発現:酵素遺伝子の異種宿主発現を行った。酵素蛋白質は封入体を形成せず発現しているが、塩存在下であっても酵素活性が極めて低かった。
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