自己免疫疾患の発症は遺伝的要因ばかりではなく、環境因子に大きく左右される。本研究を開始するにあたり、牛乳塩基性蛋白質複合体がNODマウスのI型糖尿病の最も重要な自己抗原であるグルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD)の524-543に特異的なT細胞の自発的な応答を有意に抑え、さらにこの疾病の発症も抑制できることを明らかにしてきた。そこで本研究では、このI型糖尿病発症抑制因子の特定を試みると共に、その掬制機構の解明を目指した。牛乳塩基性蛋白質複合体をラクトパーオキシダーゼ(LPO)とラクトフェリン(LF)に分離後、naiveなメスのNODマウスの脾臓細胞の培養系にLPOを添加したところ、GAD524-543に特異的なT細胞のインターフェロン-γ産生応答が濃度依存的に抑制され、100μg/mlの添加により完全に消失することが見出された。しかし、そのような抑制活性はLFには認められなかった。さらに、0.25%LPO含有飼料をNODマウスにあらかじめ1週間以上自由摂取させたところ、細胞培養系にLPOを直接添加しなくとも、GAO524-543に特異的なT細胞応答が有意に抑制されることが明らかとなった。これらのことから、牛乳塩基性蛋白質複合体に含まれるI型糖尿病発症抑制因子はLPOであると結論づけられた。次にLROを加熱処理後、上記脾臓組胞培養系に添加したところ、自己抗原に特異的なT細胞応答に対するLPOの抑制活性がほぼ完全に消失した。さらに、西洋ワサビ由来のパーオキシダーゼはLPOと比較して弱いながら、この自己免疫応答を抑制できることが示された。これらの結果より、LPOのI型糖尿病発症抑制効果には、その酵素活性が関与しているものと考えられた。
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