ロイシン、イソロイシン、バリンの3つのアミノ酸は分岐鎖アミノ酸(BCAA)と総称される必須アミノ酸である。分岐鎖α-ケト酸脱水素酵素(BCKDH)複合体は、BCAA代謝の律速酵素であり、特異的なキナーゼ(BDK)によるリン酸化で不活性化される。BDKには複合体に結合した結合型と結合していない遊離型が存在し、結合型のみが活性を示すことが知られている。一般的に糖尿病ではBCAA代謝が亢進することが報告されているが、インスリンがBDKの発現を高めるという報告がある。本研究では2型糖尿病モデルラットであるOLETFラットのBCKDH複合体活性の調節について検討し、BCAAの長期摂取がこれらの酵素に与える影響について検討した。OLETFラットを2型糖尿病モデルラットとし、LETOラットを正常の対照動物として用いた。8週齢時に食餌を標準食(AIN93G)又はBCAA食(AIN93G+5%BCAA)に分け、[LETO/標準食][OLETF/標準食][LETO/BCAA食][OLETF/BCAA食]の4群に分けた。19週齢時に肝臓及び血液を採取し、BCKDH複合体とBDKの活性及びタンパク質量を測定した。肝BCKDH複合体活性は、LETOラットに比べてOLETFラットで有意に低く、複合体の各サブユニットのタンパク質量も有意に減少していた。さらにOLETFラットにおける肝BDKは、総タンパク質量が有意に減少しているにも関わらず、活性及び結合型のタンパク質量は有意な高値を示した。また、各ラットにBCAA食を摂取させることで肝BCKDH活性が上昇した。この時、複合体サブユニット量には変化はなかったが、BDKの総タンパク質量及び結合型タンパク質量が有意に減少しており、BDK活性が有意に低下した。これらの結果より、高インスリン血症であるOLETFラットでは肝臓におけるBCKDH複合体活性が低下し、これはBCKDH複合体の各サブユニット量の減少及びBDK活性の上昇に起因することが示唆された。また、BCAA食摂取によりOLETFラットのBCKDH複合体活性が上昇したが、これは結合型BDKタンパク質及びBDK活性の減少に起因することが示唆された。
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