Botrycoccus brauniiは大量の液状炭化水素を生産するため、再生産可能なエネルギー資源として有望視されている微細藻類である。本種には全く異なるタイプの炭化水素を生産するA、B、およびLの3品種が存在する。A品種は直鎖状の炭化水素を生産し、L品種はリコパジエンと呼ばれるテトラテルペンを生産する。それに対しB品種は、ボツリオコッセン類と呼ばれるトリテルペンとメチルスクアレン類を生産するとともに、メチルスクアレンエポキシドおよびその誘導体を蓄積する。さらにB品種はA品種に見られる長鎖脂肪鎖炭化水素類のエポキシドも生産している。これらの事実は、本種のB品種が幅広いタイプの炭化水素の二重結合に、エポキシ基を導入する能力を持っていることを意味している。そこで本研究はB. brauniiに存在する未知エポキシド合成酵素の諸性状を明らかにし、生物工学的手法を応用することで、グリーン・サステイナブルケミストリーへ応用可能な新規触媒を開発することを目的とする。本藻の粗抽出物あるいはミクロソーム画分を用い、トリチウムラベルしたファルネシル二リン酸を基質として反応を行い、その生成物を順相および逆相薄層クロマトグラフィーにより分析したところ、炭化水素より極性の高い物質の生成が確認された。しかしながらこの物質はテトラメチルスクアレンエポキシドの標品とはRf値が完全には一致せず、メチル基の数の異なる同族体であるのか、あるいは別の物質であるのかは判定できなかった。そこでトリチウム標識したスクアレンを基質に用いることで、この反応が進行する条件を現在検討している。
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