本研究は、ポリ塩化ビニル(PVC)など難分解物質を、海洋性細菌を用いて分解し有用物質を生産するシステムの基盤構築を目的としている。今年度の成果は以下のとおりである。 1) 脱ハロゲン化酵素(デハロゲナーゼ)保有株の分離と酵素の性状解析 PVC分解中間産物の一つと推定される、低分子のハロ酸を基質とするハロ酸デハロゲナーゼ(haloacid dehalogenase; HAD)を保有する細菌の探索を行った。 分離においては、HADを有さない大腸菌の増殖阻害を引き起こすことが報告されているモノブロモ酢酸(MBA)を用いたスクリーニングを試みた。MJTY培地にMBAを添加したMBA培地を用いて、鹿児島県若尊カルデラの海底コアサンプルから微生物の分離を行った。本コアから、37℃好気下のMBA培地で良好な増殖を示すI37c株の純粋分離に成功し、その粗酵素液からMBAに対するHAD活性を検出した。I37c株の16S rDNA塩基配列はBacillus aquimarisと100%の相同性を示した。さらに、本株より部分精製したHADの性状解析を行った。I37c株のHADの至適反応温度およびpHは約41℃、pH 10で、既知のHADと類似していた。また、本HADはgroup Iに属するHADと同様にL体とD体両方の2-クロロプロピオン酸に対して活性を示した。本成果をMicrobe&Environmental誌に投稿し、現在査読中である。MBA添加培地により、海産試料からHAD保有細菌をスクリーニングすることが可能となった。21年度は本手法を用いて分離規模を拡大し、既報のHADと生化学的性状の異なる有用な菌株の分離を目指す。 2) キチン資化細菌の分離 上記で用いた若尊カルデラの海底コアには、付近に生息するサツマハオリムシに由来する大量のキチン堆積物を含む。そこで、同コアサンプルより、キチン添加ゾベル海水を用いてキチン資化細菌の分離を試みた。その結果、キチンを炭素源として増殖可能な菌株を得た。本菌株の16S rDNA塩基配列は、Neptunomonas japonicaと93%の相同性を示し、Oceanospirillaceae科の新属細菌種と判断した。蟹殻などとして大量に廃棄されるキチンの有効利用に向けた、新規有用酵素の開発基盤となるものである。
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