化石資源の大量消費に伴う大気中のCO2濃度の増加、資源枯渇問題に対処するため、再生産可能な木材等のバイオマスからエタノールを製造する緊急性が増大している。本研究では、選択的白色腐朽菌などの木材腐朽菌の培養系及び分泌物を利用してバイオメカノケミカルラジカル反応を起こし、その促進因子を解明することにより、エタノール発酵の転換効率を向上させる新規な実用プロセスを開発することを目的とする。平成21年度は、白色腐朽菌の脂質過酸化系に関連して、リパーゼによる脂肪酸からの過酸の生成と、それを利用した酵素糖化前処理について検討した。リパーゼとしては、各種微生物起源のものを選び、過酸の生成率を比較した。選抜したリパーゼを用いてオレイン酸から過酸を生成し、部分的に脱リグニンしたパルプを処理して、過酸によるリグニンの分解率、酵素糖化率、および、蛍光標識した糖質結合モジュール(CBM)による露出した多糖の分析を行った。糖質結合モジュール(CBM)としては、結晶性セルロースを認識するCBM3と非結晶性セルロースを認識するCBM28を用いた。その結果、リパーゼにより生成させた過酸により、木材中の結晶性および非結晶性セルロースが露出し、酵素糖化が促進されることが明らかとなった。オレイン酸などの脂肪酸は、Ceriporiopsis subvermisporaなどの白色腐朽菌により産生される代謝物であり、リパーゼも白色腐朽菌により産生されることから、生物摸倣型の酵素糖化前処理法の一つとしての可能性を示した。より反応性の高い酵素の選抜や反応条件の検討により、酵素糖化前処理法としての効果が増大するものと期待される。
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