本申請者は、酸化ストレス惹起物質であるパラコートの毒性発現に影響を与える酵母遺伝子を網羅的にスクリーニングし、エンドソーム上でのMVB(multivesicular body)ソーティングシステムに関わる5つの蛋白質がパラコートに対して防御的に作用することを見出した。昨年度の検討により、ここで同定された因子以外にも、MVBソーティングシステムに関わる蛋白質(これまでに13種同定されている)はどれを欠損させた酵母も全てパラコートおよび過酸化水素に対して高い感受性を示すことが明らかとなった。一方、MVBソーティングシステムによって認識される蛋白質はいくつかの経路でエンドソームに運ばれるが酸化ストレス防御に関わるのは、エンドサイトーシスやALP経路ではなく、CPY経路を介した輸送系であることが判明した。また、エンドソームから液胞への蛋白質輸送に関わる因子の欠損酵母も酸化ストレスに対して高感受性を示した。これらの結果は、小胞体から液胞への蛋白輸送システムが酸化ストレス防御に関与していることを示唆している。細胞が酸化ストレスに曝されると蛋白質がカルボニル化されるが、MVBソーティングシステムに関わる因子を欠損させた酵母に酸化ストレスを負荷した際の蛋白質カルボニル化の程度は正常酵母に比べて有意に高く、また、細胞内活性酸素レベルも正常細胞より顕著に高い値を示した。これらのことから、小胞体から液胞へ運ばれることによって細胞内の過酸化レベルを低下させる蛋白質が存在すると考えられる。以上のように、本研究によってMVBソーティングシステムが酸化ストレスに対して防御的に作用していることが明らかとなった。今後、小胞体から液胞へ運ばれる抗酸化蛋白質を同定することによって、酸化ストレスに対する新しい細胞内防御機構が解明できるものと期待される。
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