研究概要 |
芳香族炭化水素受容体(AhR)は環境中の化学物質(ベンゾピレンなど)による発がんを促進するが、それとは逆に、大腸がん(特に盲腸がん)の自然発症を抑制することが過去数年の研究から明らかになってきた。すなわち、1) AhR遺伝子欠損(AhR^<-/->)マウスでは生後10週齢以降で盲腸部に腫瘍が自然発症し、最終的には管状腺がんに至る。2) AhRは小腸、盲腸のCryptの底部に存在して腸内細菌に対する生体防御反応に関与しているパネート細胞に主に発現している。3) AhR^<-/->マウスではβ-カテニンの異常蓄積がみられる。AhRはリガンド依存的なE3ユビキチンリガーゼ複合体の構成成分であり、プロテアソーム依存的な蛋白質分解を促進するが、β-カテニンをその基質の一つとすることを培養細胞の系、及びin vivoの腸上皮細胞で明らかにした。腸におけるAhRの活性化は、腸内細菌の働きで生じたトリプトファンやグルコシノレートの代謝体がAhRナチュラルリガンドとして働き、外来性リガンドと同様にβ-カテニンの分解を促進する。AhRと従来のApc経路の関係をApc^<Min/+>とAhR遣伝子の二重遺伝子欠損マウスを用いて解析した。その結果、両者は独立的、かつ、協調的にがん抑制に働いていることが明らかになった。又、この研究結果を利用して、AhRナチュラルリガンドであるI3C(indole-3-carbinol)やDIM(3,3'-diindoylmethane)を含む飼料をApc^<Min/+>マウスに与えたところ小腸、盲腸における発がんが顕著に抑制されることを見出した。以上の研究結果より、AhRは腸内細菌で生成されたリガンド依存的にβ-カテニンを分解することにより発がんを抑制していることが明白となった。しかし、DANマイクロアレイを用いた解析およびAhRアッセイの結果から「リガンドの活性化にCYP1ファミリーに属するシトクロムP450が関わっている」という申請者の仮説は否定された。
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