本研究は、不整脈へのペースメーカー治療に倣い、視覚障害者や治療に抵抗するリズム障害者への人工サーカディアンリズムペースメーカー治療を目指して行われた。本年はマウスを用い、以下の2実験を行い所定の成果を得た。 1.メラトニン注入法によるペースメーカーの試み:眼球摘出後行動リズムが24時間とは異なる周期でフリーランしているマウスに、24時間周期でのパルス状にメラトニン注入を行い、自発行動リズムを指標に同調の有無を検討した。マウスに留置カテーテルを設置し、ハーネスを取り付けて、行動を制限することなく長期の注入を可能とした。自発行動測定と連続注入を可能とする行動測定システムを完成させ、本装置を用いてプログラム注入を行った。iPRECIOポンプにて、行動開始の数時間前よりメラトニンが注入されるようにセットして行動リズムを観察したところ、数日の移行期を経て注入時刻にほぼ一致したリズムが観察された。ポンプ注入は、ヒトの場合は皮下への埋込が十分可能なサイズであるが、マウスで皮下への注入が可能なことが示されたため、ヒトにおいても、メンテナンスや感染防止などの都合上、体外に設置することが望ましい。今後は濃度の調節、種による同調位相の差違を検討する。現在治験中のメラトニン受容体作動薬の使用でさらなる効果が期待できる。 2.リズム障害の治療を目指した視交叉上核(SCN)への連続注入の試み:中枢時計の治療を視野に入れSCNの直接注入も試みた。SCNに光ファイバーを慢性設置し、時計遺伝子リズムを連続計測し、30日以上障害なくSCNの時計遺伝子リズムを確認した後、ファイバーをカテーテルに換え薬物注入を試みた。本システムは、マウスにおいては、自発行動量、摂食リズムなどへの影響がみられなかったが、カテーテルにより脳実質欠損が生じ、さらに薬液注入による障害も明らかとなり、ヒトへの応用には別ルートの開発が必要であることが分かった。
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