【研究目的】 腫瘍細胞内の出来るだけ多くのリン酸化蛋白質を網羅的に検出するシステム構築のために、ヒト白血病細胞株から精製したリン酸化蛋白質画分に対する単クロン抗体の作製を行い、16株のヒト白血病細胞株を抗原とした間接蛍光抗体法で反応性の異なる154種の抗ヒトリン酸化蛋白質単クロン抗体(PPmAb)群を選別した。更にこのPPmAb群の腫瘍細胞株(10種29株)との反応性を間接蛍光抗体法で検討した。その結果、抗体の反応性を多変量解析処理することにより、わずか18種類の抗体で10種29株の腫瘍細胞株を腫瘍種毎に明確に分類することに成功した。この成績を基に、本研究では網羅的に作出したPPmAbを用いて、患者のがん組織のリン酸化蛋白質発現プロファイルを作成する。これに患者個々のがんの特性(がんの転移、抗がん剤の奏功、予後)データを加え多変量解析処理の後データベース化し、「個々のがんの特性」を予測できるシステムを開発する。 【成績】 平成20年度は、抗リン酸化蛋白質モノクローナル抗体のホルマリン固定細胞及び癌組織との反応性を検討した。ホルマリン固定MOLT-4細胞を用いた場合、アルコール固定細胞と反応していた抗体のうち、3割程度の抗体に反応性が認められなかった。このことは、ホルマリン固定により抗原のエピトープが変化してしまったことを示唆している。このことは、非常に重要であり、本研究の前提となっている抗体と癌細胞との反応性の組み合わせにより「がんの特性を解析しよう」というコンセプトが成り立たない可能性がある。今後、研究の進展にはこのことを意識して研究の方向性を決定する必要がある。 次にホルマリン固定MOLT-4細胞との反応性が陽性を示した残りの7割の抗体についてホルマリン固定大腸癌組織および食道癌組織との反応性を検討したところ、正常組織とは反応せず、癌組織に特的に反応する抗体を見いだした。この抗体が認識している抗原が新たながん診断マーカーとなる可能性があるため、現在、免疫沈降法を用いたと質量分析によりこの抗体の特異性の同定に取りかかっている。
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