一般に温度が下がると、遺伝子発現、細胞運動、代謝等が低下する。しかし、哺乳類の精巣は常に軽度の低温環境下におかれ、そこでは活発に細胞分裂・分化を行う。軽度低温は、精巣だけではなく皮膚・上気道その他外界に接する場で生理的にみられ、種の存続や生体と外界との相互作用にとって非常に重要な環境と考えられるので、特異的な生体防御機構が存在するかも知れない。そこで本研究ではまず皮膚損傷の治癒過程に、軽度低温で発現が亢進する低温ショック蛋白質が関与していないかどうかを解析した。 1.皮膚創傷治癒過程における低温ショック蛋白質Cirpの機能と作用機序 Cirp遺伝子ノックアウトマウスの皮膚を全層切除し、野生型マウスとで創傷治癒過程を比較すると有意に創傷治癒が遅延していた。この一因として、Cirp遺伝子ノックアウトマウス由来線維芽細胞および皮膚上皮細胞ともに遊走能が低下していることが示された。そこでCirp遺伝子ノックアウトマウス由来線維芽細胞にCirpを導入発現させ、発現の変化する遺伝子群をマイクロアレー解析し、細胞遊走能に関与する分子を発見した。さらに関与するシグナル伝達経路を明らかにした(投稿準備中)。 2.Cirpと結合する蛋白質を、酵母2ハイブリッド法にて検索し、細胞増殖に関連する分子を見いだしたので解析中である。 3.(Cirpの発現を制御する)軽度低温応答転写因子の活性に影響を与える修飾因子を解析することにより、ストレス応答系と代謝系との新たな関係が見いだされた。
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