本研究では、研究代表者が世界に先駆けて開発した、(i)単純ヘルペスウイルス(HSV:herpes simplex virus)感染細胞のリアルタイムイメージング技術、および、(ii)ウイルス特異酵素試験管内アッセイ系を応用し、既存の抗HSV薬とは異なる作用機序の薬剤スクリーニング系を開発することを目的とする。本年度は、HSV Us3PKの活性を制御するリン酸化部位(Ser-147)を同定し、同定されたリン酸化部位を認識する抗リン酸化モノクローナル抗体の作製に成功した。このリン酸化抗体を利用すれば、アイソトープを使用せずに、酵素抗体法でPK活性が測定可能となる。作製したリン酸化抗体用いた解析より、Us3Ser-147のリン酸化が感染細胞において実際にキナーゼ活性を約10倍増強させることを明らかにした。また、感染細胞においては、5%のUs3のみがSer-147の自己リン酸化を受けていることが明らかになり、Ser-147の自己リン酸化は極めて厳密に制御されていることが明らかになった。さらに、マウス動物モデルを用いた解析により、Us3Ser-147の自己リン酸化はHSVの病態発現および個体レベルでのウイルス増殖に大きな役割を果たしていることが示唆された。一方、Us3Ser-147に変異導入した組み換えウイルスでも自己リン酸化が観察されたことから、Ser-147にもUs3には自己リン酸化部位があることが示唆された。しかし、Ser-147はUs3自己リン酸化部位の一部であり、他の自己リン酸化部位がUs3の活性を制御していることも示唆された。
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