研究概要 |
胸腺では胸腺髄質上皮細胞が,本来特定の末梢組織にのみ発現するタンパク質である組織特異抗原を異所的に発現し,組織特異抗原を認識するT細胞クローンを直接,あるいは樹状細胞を介して間接的に除去していると考えられている.一方で,ヒト胸腺髄質上皮細胞では癌関連抗原が発現していることが明らかになり、胸腺では癌関連抗原を認識するT細胞クローンを除去していると考えられる.そこで申請者は胸腺髄質上皮細胞における癌関連抗原の発現を抑制すれば,癌関連抗原を認識するT細胞クローンの多様性を増大できると考察し本研究を推進している。この仮説を検証するため,胸腺髄質で網羅的に組織特異抗原の発現が低下するTRAF6欠損マウスを用いた.このマウスの胸腺において,癌関連抗原trp-2,oy-ms-4,gp100の発現量が低下していることを半定量RT-PCR法によって見出した.次にTRAF6胎仔胸腺ストローマを移植した元来胸腺の無いヌードマウスに,繊維芽肉腫の一種で癌関連抗原OY-MS-4を発現するMeth-Aを皮下移植した.その結果,TRAF6欠損胎仔胸腺ストローマを移植したマウスでは腫瘍塊形成が抑制され,血清中のMeth-Aに対する抗体量が高いということが示された。また、Meth-Aに対する細胞障害性T細胞の活性もTRAF6欠損胸腺移植ヌードマウスで高いことが明らかとなった。この結果はTRAF6欠損胸腺ストローマにより,癌に対する免疫応答を誘導することができたことを示している。したがってTRAF6欠損胸腺において癌関連抗原を認識するT細胞クローンの多様性が増大している可能性が示唆された。
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