本研究では、投薬に関するアクシデント・インシデント事例を大規模に収集し、医学・薬学的側面のみならず、人間科学的・社会科学的側面からも精細に分析し、それらを分類・整理した「薬物治療に関するアクシデント・インシデントライブラリー」を構築すること、加えて、ライブラリーを活用して、事例間の共通点やパターン、法則性を解析することを目的とした。今年度は、昨年度確立した分析法を用いて、服薬に関するアクシデント・インシデント事例の収集、分析、データベースへの格納を行った。具体的には、分析対象とした210事例について、事象の整理(関与者の認知・判断・行動の時系列の書き出し)、問題点の抽出(先の事象から問題点を抽出)、背後要因(問題点惹起の要因の抽出、分類)の探索を行い、データベースに格納した。問題点や背後要因は詳細なカテゴリ分類項目(昨年度開発)を選択することで分析した。構築したライブラリーを活用して、事例解析を行った結果、対象とした全事例で複数の背後要因が見られ、ミスの要因となった医薬品特性、患者特性、医療従事者特性の詳細解析を行うことで事例間の共通点やパターン、法則性が明らかになることが示唆された。今後、構築したライブラリーに継続して新しい事例を格納していくことでアクシデント・インシデント事例の未然回避につながることが期待される。さらに本ライブラリーは医療従事者の研修ツールとしての効果も期待されるだろう。
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