研究概要 |
多剤耐性緑膿菌(multi-drug resistant Pseudomonas: MDRP)の院内感染とその制御は臨床上大きな課題となっている。MDRPの感染経路予防策やカルバペネム系抗菌薬使用制限など様々な方策が導入されているが、決定的な有効手段はない。アミノグルコシド(AGs)耐性は治療経過中多段階の過程を経て生じ、その際薬剤排出ポンプ(Mex pump: MexAB-OprN, MexEF, MexXY)の出現が注目されている。この耐性発現を解析するため、H20年の当院入院患者から分離された緑膿菌臨床菌株を用い、既知の薬剤排出ポンプの発現の有無と薬剤感受性の関係をみた。薬剤排出ポンプの発現はRT-PCR法とウエスタンブロット法を用い、メタロβラクタマーゼ産生の確認は、2-メルカプトプロピオン酸(2-MPA)使用のdisk拡散法で行った。当院熱傷センター臨床分離株は、まずメタロβラクタマーゼによりカルバペネム系とニューキノロン系薬が耐性となり、その後AGs系薬の継続使用によってMexAB-OprN MexEF発現を経て、MexXY発現することによってMDRPになった。一方内科病棟株にMexXYは発現せず、MexAB-OprNとMexEFの発現亢進によりMDRPとなった。MDRPの検出部位は重症熱傷患者では創部で、AGsの組織移行性や標的部位の環境が影響していることが予測された。臨床上観察された本現象について、現在実験的に菌の発育環境を変化させ確認中である。また、臨床検体の耐性獲得機構にMex pump以外の因子(遺伝子)の影響について検索中であり、Mex pump(特にMexXY)を含めた多剤耐性に最も関与する遺伝子の候補を割り出し、来年度以降、迅速検査の作成に着手する予定である。治療関連事項として、緑膿菌に有効な生薬の検索を行った。使用した生薬は、感染症に有効との記載のあるもので、地楡、板藍根、黄連、大黄、烏梅、蒲公英、知母、黄苓、金銀花、ドクダミの10種類を煎じて抽出し血液寒天培地に緑膿菌とともに培養した。この内、烏梅と知母では、緑膿菌の生育が抑制されることが判明した。来年度は、2種の生薬について作用機序や使用法について詳細を検討する。
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