研究概要 |
2-エチル-1-ヘキサノール(2E1H)の空気中濃度が高い建物でシックビル症候群(シックハウス症候群)、化学物質過敏症状等が生じるが、病態は未解明で、また、2E1H発生量の決定要因にも不明な点が多い。9週齢の雄ICRマウスを理論濃度値0,55,110,219ppmの2E1Hに1日8時間、7日間吸入曝露した。219ppm群では鼻腔の嗅上皮に構成細胞の減少、炎症細胞浸潤が見られた。呼吸上皮では炎症細胞浸潤は軽度で、また下気道では区域気管支、細気管支の平滑筋層に炎症細胞浸潤が見られた。この結果は、2E1H曝露時にみられる鼻の不快感、刺激性と一致すると考えられた。また、肝のアルコール脱水素酵素(ADH)活性は、0ppm群で6.9±0.9(nmol/mg protein/min)、219ppm群で7.6±1.4(nmol/mg protein/min)で、曝露によるADH活性の上昇は認められなかった。マウスでは2E1HがADHの、2-エチル-1-ヘキサナールがアルデヒド脱水素酵素の基質となることも示されたが、ppbの濃度域で生じるシックハウス症状の原因が、2E1Hから2-エチル-1-ヘキサナールへの代謝亢進による可能性はほぼないと考えられた。また、2E1H発生側の要因解明のために、セメント中に存在する化学成分と2E1H発生量との関係を検討した。CaO、Fe_2O、Na_2O、Mn_2O_3が発生促進と密接な関係があり、一方SiO_2、K_2O、MgOは発生を抑制すること、発生促進と抑制はセメントの種類、含水率、経時日数に依存することが明らかになった。今回の分析条件では、アルデヒドの発生は認められなかった。2E1Hの発生を避けるためには、コンクリートの十分な乾燥が必要であることが知られるが、さらに、床を形成するセメントコンクリートの材料を適切に選択することの重要性が示唆された。
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