本研究では食品に含まれる栄養素などの神経傷害に対する保護作用について明らかにすることを目的とする。本年度はそばに含まれるポリフェノール類の1つであるルチンに注目して検討を行った。雄6週齢のラットにトリメチルスズ(TMT)を投与して海馬傷害モデルとし、TMT投与前2週間と投与後2週間にわたって餌に0.75%(w/w)の濃度で混ぜたルチンを投与した。実験群はControl群、rutin群、TMT群およびTMT+rutin群の4群である。これら4群について空間記憶能の試験であるモリス水迷路試験を施したところ、TMT群ではcontrol群に比較して有意な記憶能の低下がみられたが、TMT+rutin群ではTMT群に比較して有意に記憶能低下が抑制されていた。Control群とrutin群との間に同試験の結果に有意差はみられなかった。モリス水迷路試験終了翌日に脳を取り出して海馬領域の遺伝子発現を観察したところ、炎症関連のタンパクがTMT投与により活性化され、rutin投与によってこれが抑制されていることを示す結果が得られた。これらのことから、食事由来のルチンは脳内の炎症作用を抑制し、このことが炎症由来の記憶能低下を抑制していることが示唆された。現在は脳採取時期を広く設定(TMT投与後2-12週)し、経時的な脳の病理学的変化、組織学的変化および遺伝子発現状況の変化を詳細に観察しているところである。
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