研究概要 |
本研究は乳管内に存在する少量の分泌液(Nipple Aspiration Fluid、 NAF)を対象にして、プロテオミクスの技術を用いて、早期乳癌の検出に有用な分子マーカーを検索し、新しい検診方法を開発することを目的とするものである。今年度は本研究の基礎技術をなすプロテオミクス解析の検討を腫瘍組織サンプルを用いて行なった。また、免疫組織学的方法を用いて、乳癌初期病変、前癌病変における有用な分子マーカー検索を行なった。プロテオミクス解析の検討として、倫理委員会の進行状況やサンプル入手の点から大腸癌サンプルを用いて、基礎的検旨討を行った。プロテオミクスの手法としては二次元電気泳動とmass spectrometry(MS)を用いたものが最もよく 用いられているが、NAFのような体液の解析には種々の問題点が指摘されている。そこで2-nitrobenzenesulfenyl chloride(NBS)によりトリプトファン残其をラベルしてMSと定量的プロテオミクス解析を行なうNBS法による検討を行った。12例の大腸癌組織と非癌部組織を対象にNBS法で処理されたサンプルをMSで解析し、癌組織で非癌部の1.5倍以上、発現量に差のあるペプチド139個を得ることができ、そのうち128個を同定した。71個が癌組織で高発現、57個が癌組織で低発現していた。癌組織で著明に高発現しており、抗体が入手出来るもの6個(S-adenosylhomcysteine bydrolase, Galectinl, RAN, Zyxin, Vimentin, Reticulocalbin)についてウェスタン法および免疫組織染色を用いて、本法の妥当性を検証した。ウェスタン法で検討した結果、上記6分子はいずれも癌組織において著明な発現亢進を示した。また、免疫組織学的検討の結果、ウェンタン法同様、癌部で陽性所見が得られたが、大部分で癌細胞のみならず周囲の間質細胞にも発現亢進が見られ、特にGalectinlおよびVimentinは間質細胞に局在が認められた。NBS法はプロテオミクス解析に非常に有用であると考えられた。乳癌を用いて種々の分子の発現を免疫組織学的に検討した所、早期乳癌、DCIS、 atypical ductal hyperplasiaの段階から発現亢進がしているものとしてヒストン修飾が注目された。
|