高齢期おいて糖尿病や耐糖能障害が血管性認知症やアルツハイマー病の危険因子であるのは明らかであるが、血糖値の相対的低水準が認知機能に与える影響はほとんど検討されて来なかった。筆者の行った地域高齢者の横断研究からは、HbA1c低値者は高次生活機能が低く、全般的認知機能が低いという結果が得られた。低水準の血糖値が認知機能を制限している可能性について更に検討を進めるため、本研究では地域高齢者の血糖値(及び関連する代謝・内分泌要因)と認知機能(特にエピソード記憶)に関する縦断研究を行う計画である。 本年度は、まず、エピソード記憶検査法の開発を行った。検査手順はenhanced cued recall testのフランス語版に準拠しつつ、簡略化により疫学調査に適合させた。また、日本語の語彙特性資料に基づいて、特性の揃った8つの刺激系列を作成し、反復測定に備えた。 ついで、縦断研究の初回調査として、地域め高齢者を対象とした総合的健康診査を実施した。65歳以上の約650名について、問診、認知機能検査(MMSE)、身体計測、血圧測定、尿検査、血液検査、心電図検査、眼底検査、動脈脈波速度検査、体力測定を行った。さらに、同意の得られた約半数の受診者について、エピソード記憶機能を測定した。同意者と非同意者との間に明らかな認知機能の差は認められなかった。 この調査により、開発したエピソード記憶検査法は実施において特に問題が無いことが確認され、一般高齢者集団における年齢別の得点分布が明らかになった。
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