血糖値の相対的低水準と関連の強い認知機能領域を特定するため、過去に実施した地域高齢者358名の健診データを用いて、HbAlc値とMMSE総得点・下位項目得点との間の関連を検討した。脳卒中既往の無い対象者をHbAlc値により4群(低・中・高・糖尿病)に分類し、各群のMMSE総得点を一般化線形モデルにより比較したところ、75歳未満の対象者においては有意な群間差は認められなかった。いっぽう75歳以上においてはHbAlc低値群と高値群は中値群より低いMMSE得点を示した(p<.05;性、年齢、教育年数、視覚障害、聴覚障害を調整)。MMSE下位項目得点について同様の分析を行ったところ、75歳以上において、HbAlc高値はいずれの下位項目とも関連が無いのに対し、HbA1c低値は見当識および遅延再生下位項目の低得点と関連していた(p<.05)。低血糖傾向は記憶と見当識を中心とする認知領域の障害と特異的に関連することが示唆された。 次に、昨年度開始したコホート研究の1年後追跡調査を実施し、脳卒中既往の無い208名の縦断データを得た。このデータセットを用いて、昨年度作成したエピソード記憶検査の妥当性を検討した。初回測定値の相関分析では、記憶検査得点とMMSE遅延再生の得点との間に有意な正の相関が見られ、時間見当識、計算、文の復唱、図形模写との間にも、より弱い相関が認められた(p<.05)。1年後MMSE下位項目得点を目的変数としたロジスティック回帰分析では、初回記憶検査得点がその後1年間の時間見当識、場所見当識、遅延再生の得点変化と関連することが示された(p<.05;性、年齢、教育歴、抑うつ度、初回MMSE下位項目得点を調整)。本記憶検査の得点は、記憶と見当識を中心とする認知領域における進行性の障害を反映する指標として、一定の妥当性を有すものと考えられた。
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